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キッチンペーパーとおじいさん


神奈川県三浦半島の小さな駅前のスーパーでの2年半前のこと。

感染症の影響でマスクや消毒液だけでなく、一時的にトイレットパーが店頭から消えた、その時に同時に消えたのがキッチンペーパー。


店頭には、キッチンペーパーはおひとりさまひとつだけという注意書き。 僕は食料品を買ってレジに並ぶと前には杖をついたおじいさん。 おじいさんが会計をしようとしていたら、レジ係の人が キッチンペーパーはおひとりさまひとつまでなんです と、諭していた。 係の人の言葉には棘はなく、こんな事態だから我慢してね、というニュアンスがあった。私も仕事としてルールは守らなきゃいけないの、といった感じで、じゃこれは返してきますね、と。 僕が察するに、お爺さんは杖をついて歩いてきた。どれくらいの距離なのかは分からないけれども、杖をつくような高齢者が外出するというだけでも苦労だろう。 じゃあ、そのキッチンペーパーは僕がひとつ貰いますよ、と声をかけた。 振り返るおじいさんは何ごとか不明の眼差しだった。

レジ係の人は、黙って僕のカゴにキッチンペーパーを入れようとしていた。 僕のキッチンペーパーはおじいさんが買ってくれるんです、と僕は返した。 ようやく意味が呑み込めたおじいさんと苦笑するレジ係の人。 おじいさん ありがとう、と僕は言った。 レジ係の人は、僕に向かってこう言った ありがとう、返しにいくのが面倒だったの。

帰路なんとなく心は軽やかだった。

心を配るということは、自らを気分良くすること。 おじいさんに教えてもらった三浦半島のスーパーでのささいな出来事。 おじいさん ありがとう、と僕は呟いた。