子育てとティーンエイジャーのウェルビーイング 前編
- 西村太志
- 4月27日
- 読了時間: 6分
更新日:5月9日
ティーンエイジャーのウェルビーイング
家庭とウェルビーイング
都市部で暮らすティーンエイジャーを持つ親御さんにとって、子どもの「ウェルビーイング」――心と体の健康や幸福――を高めることは重要な関心事ではないでしょうか。
ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることをいい、短期的な幸福だけでなく生きがいや人生の意義といった将来にわたる持続的な幸福を含む概念です。

子どもが充実した日々を送るためには、家庭環境が大きな影響を与えます。この記事では、家庭や親子関係、親の幸福度、そして共働きなど現代の家庭の状況が、ティーンエイジャーのウェルビーイングにどう関わるかを探ります(学校・SNS・地域社会など家庭外の要因については後半で扱うため、今回は家庭内の要因に焦点を当てます)。
親子関係の質が子どもの幸福度を左右する
親の与える幸福感
まず、子どもの幸福感と家庭環境の関連について考えてみましょう。子ども自身の大規模調査でも、家庭への満足度が低い子どもほど主観的な幸福度が低いという結果が報告されています【資料A】。 家庭で安心感や充実感を得られている子どもは、心の安定や自己肯定感が高まりやすく、逆に家庭に不満があると精神的な不安やストレスを感じやすいと言えます。家庭は子どもにとって最も身近で影響力の大きい生活環境であり、その満足度が子どものウェルビーイングを支える重要な土台となるのです。
一生ものの幸福感
さらに、世界的に見ても幼少期から思春期にかけて親子関係が良好であることは、その子どもが大人になった後の幸福感にも強い影響を与えることが明らかになっています【資料B】。

親子の絆や信頼関係がしっかり築かれた家庭で育った子どもは、困難に直面した際にも家族からの情緒的サポートを得られやすく、心の回復力(レジリエンス)も高まりやすくなります。家庭内の温かい人間関係が、ティーンエイジャーの心身の健やかな発達にプラスに働くことは間違いありません。
親の幸福度と子どものウェルビーイングの関係
親自身のウェルビーイング
次に、親自身の幸福度(幸せの度合い)と子どものウェルビーイングの関係を見てみましょう。最近の日本の研究でも、親の幸福度が高いと子どもの幸福度も高くなるという緩やかな相関関係が確認されています 【資料C】。
親が笑顔で充実している家庭では、子どもものびのびと安心して過ごしやすいでしょう。一方で、親がストレスを抱えてイライラしていると、その感情は家庭内で伝染し【資料D】、子どものメンタルヘルスにも悪影響を及ぼしかねません。
相互作用する幸福感
そのため、家庭の中で親自身がウェルビーイングを保つことも重要です。例えば、家族で一緒に食事をする時間は親の心の健康にも良い効果をもたらします。ある調査では、子どもと頻繁に食事をしている親ほど、社会的・感情的ウェルビーイングの状態が良好であったと報告されています【資料E】。
親の精神的健康が子どもの健康や幸福に影響を与えることはよく知られているため、親が自分の心身をケアすることはめぐりめぐって子どものウェルビーイング向上につながるのです。
共働き時代における家庭の役割と課題
変化する家庭環境
現代の都市部では共働き世帯が当たり前になりつつあります。実際、日本では1980年に専業主婦世帯数が共働き世帯の約2倍でしたが、2016年には状況が逆転し、共働き世帯数が専業主婦世帯数の約2倍にまで増加しました。女性の高等教育進学や社会進出、経済状況の変化などを背景に、家族の在り方も大きく変化しています。それに伴い、家庭に求められる役割や子育ての形態も変わりました。
従来は母親が家庭を守り父親が外で働くという役割分担が一般的でしたが、今では両親が仕事と育児・家事を両立させる必要があります。しかし現実には、特に母親に大きな負担がかかりがちです。

研究者からは「母親の就労は役割過重につながり、幸福度を低下させることになる。低い幸福度の中での子育てに良い影響を期待することは難しいだろう」と指摘されています。つまり、親が疲弊して幸福感を失った状態では、子どもの心身の健やかな成長にも陰りが生じかねないということです。
2人で子供に向き合う
こうした課題に対応するには、社会全体でワーク・ライフ・バランスを推進し、父親の育児参加を促進するなど家庭外からの支援を整えることも重要ですが、家庭内でも夫婦がお互い役割を分担し協力し合う工夫が欠かせません。
親同士が協力して一人に負担を集中させないようにすることで、親のストレスが軽減され、子どもに向き合うゆとりが生まれます。それが結果的に家庭の安定につながり、子どもの安心感や幸福感を高めることにもつながるでしょう。
ティーンエイジャーのウェルビーイングを高める家庭での工夫
家庭環境と親の在り方が子どものウェルビーイングに与える影響は大きいため、日々の暮らしの中で意識しておきたいポイントを整理してみましょう。忙しい都市生活の中でも実践しやすい工夫をいくつか挙げます。

親子のコミュニケーションを大切に: 毎日の何気ない会話でも、子どもの話をしっかり聞く時間を意識的に取りましょう。親が自分に関心を持ってくれていると感じられると、子どもは安心して心を開き、悩み事も相談しやすくなります。
家族で過ごす時間を増やす: 共に過ごすひとときは家族の絆を強めます。忙しくても一緒に夕食をとる、週末に家族でお出かけするといった小さな機会を積極的に作ってみましょう。家族での食事は子どもの心身に良い影響を与えるだけでなく、親自身のメンタルヘルスにもプラスになることが報告されています 【資料E】。
親自身の心と体のケアを忘れずに: 親も自分の休息や健康に気を配りましょう。十分な睡眠やリラックスする時間を確保すると、ストレスが軽減され、笑顔で子どもに接する余裕が生まれます。親の気持ちにゆとりができれば、家庭の雰囲気も明るくなり、子どもの情緒の安定にもつながります。
夫婦で協力して子育てをする: 共働きで忙しいほど、夫婦間で家事・育児を分担し合うことが不可欠です。一人の親に負担が集中しないようにすることで、親自身の負担感やストレスが和らぎ、子どもと向き合う時間と心の余裕を保てます。家庭全体が協力し合う姿勢を子どもに見せることで、子どもも安心感を得られるでしょう。
家庭はティーンエイジャーにとって心の拠り所であり、その成長を支える土台です。親子で支え合いながら心地よい家庭環境を築くことが、結果的に子どもの幸せにつながります。
心と体のバランスを整えてウェルビーイングな毎日を。
参考資料
【資料A】公益財団法人 日本財団(2023)『こども1万人意識調査 報告書』
【資料B】GIGAZINE(2025)『親子関係の質で大人になってからの幸福度を予測できることが判明』
【資料C】佐藤 一磨(2024)『親の幸福度が低いと子も低くなる」遺伝、生活環境、学歴、所得…最新研究が明らかにした"幸福度の真実"』
【資料D】東京ティーンコホート『見えてくたこと』 東京ティーンコホート
【資料E】Utter J, Larson N, Berge JM, Eisenberg ME, Fulkerson JA, Neumark-Sztainer D. (2018)『Family meals among parents: Associations with nutritional, social and emotional wellbeing.』 Prev Med. 2018; 113:7-12.
西村 太志(にしむら たいし)
兵庫県出身、東京都国立市在住。一橋大学大学院で社会学を研究中。
ウェルビーイング、つながりの再構築、主観と客観のあいだを探る思想に関心がある。
趣味は読書、映画、音楽(高校時代まで吹奏楽部)。