子育てとティーンエイジャーのウェルビーイング 後編
- 西村太志
- 5月3日
- 読了時間: 6分
更新日:5月9日
前編では家庭環境や親子関係に焦点を当てましたが、後編となる本稿では、ティーンエイジャー(12〜18歳)を取り巻く家庭外の環境、つまり学校生活や友人関係、SNSや睡眠習慣などに目を向けてみましょう。

それぞれの観点から、ティーンの心身のウェルビーイング(心と体、そして社会的に満たされた状態)を支える実践と課題を探り、親としてできることや政策的な対応について考えてみます。
学校生活とティーンのウェルビーイング
学業ストレスと心の健康
中高生にとって学校は生活の中心ですが、学業や部活動のプレッシャーが心の負担になることがあります。日本の教育環境ではテストや受験競争が避けられず、真面目な生徒ほどストレスを溜め込みがちです。
長時間の授業・塾通いで睡眠不足に陥るケースも多く、実際に小学6年生で平均7.9時間だった平日の睡眠時間が、高校3年生では6.5時間まで減少するという調査結果があります【資料A】。厚生労働省は中高生は8〜10時間の睡眠を推奨していますが、このように現状は大きく下回っており、慢性的な睡眠不足が集中力や気分の不安定さにつながりかねません。

親としては、子どもの生活リズムを整えるサポートが大切です。夜更かしを避けるよう声をかけ、勉強と休息のバランスを取る手助けをしましょう。夕食後のリラックスタイムに会話をする、スマホやゲームの使用ルールを家庭で決めるといった工夫が、子どもの心身の疲れを和らげます。
いじめ・不登校への対応と支援
学校生活でもう一つ見逃せないのが友人関係のトラブルです。近年、いじめの認知件数や不登校生徒の数は過去最多を更新しています。 文部科学省の調査によれば、2022年度には小中高等学校で約68万件ものいじめが確認され、被害が深刻な「重大事態」も923件発生しました。不登校も約30万人に上り、そのうち11万人以上が学校内外の専門機関に相談できていないといいます【資料B】。
こうした事態を受け、政府はこども家庭庁と文科省が連携して不登校・いじめ対策の「緊急加速化プラン」を策定するなど、学校現場への支援体制強化に乗り出しています【資料C】。
保護者としては、まず日頃から子どものサインに気づくことが大切です。学校の出来事を話せる雰囲気を家庭で作り、もしいじめの兆候(急な不登校、持ち物の紛失、情緒不安など)が見られたら早めに担任やスクールカウンセラーに相談しましょう。

子どもが「学校に行きたくない」と打ち明けたときは頭ごなしに否定せず、気持ちを受け止めた上で解決策を一緒に考える姿勢が求められます。場合によってはフリースクールやオンライン学習など代替の学び場を検討することも視野に入れ、子どもの安心・安全を最優先に据えてください。
学校外にも児童相談所や地域の子ども支援センターなど相談先はあります。不安を一人で抱え込まず、専門機関の力を借りることも、子どものウェルビーイングを守るうえで重要な選択肢です。
友人関係と心の支え
思春期の子どもにとって、親以上に大きな存在になることがあるのが友人関係です。気の合う友人と過ごす時間や仲間からの共感は、ティーンエイジャーの自己肯定感や幸福感を高めるうえで欠かせない要素でしょう。実際、友人とのつながりが良好な若者ほど生活満足度が高いことが国内外の調査で示されています。

しかし一方で、日本の子どもたちは国際的に見て友人関係の満足度がやや低い傾向があります。こども家庭庁が2023年に実施した意識調査では、「友人との関係に満足している」と答えた日本の若者は63.5%にとどまり、ドイツやフランス(約70〜74%)より低い水準でした【資料D】。
思春期は多感な時期であり、「仲間外れにされたくない」「本音を言うのが怖い」といった不安から無理に周囲に合わせて疲れてしまうケースもあります。友人ができず孤独を感じる子もいれば、逆にグループ内の人間関係に悩む子もいるでしょう。
親として心がけたいのは、子どもの友人関係を見守りつつ支えることです。子どもが友達の話をしてくれたら耳を傾け、「その友達は大切だね」「困ったときは力になってくれるよ」と前向きに捉える手助けをしましょう。
交友関係に干渉しすぎる必要はありませんが、例えば友達を家に招いて一緒に過ごせる機会を作るなど、親が橋渡し役になれる場面もあります。また、万一子どもが友人関係で悩んでいる様子なら、「何かあったらいつでも相談していいんだよ」と伝えておくことが大切です。
近年はLINEなどでのグループ外しや誹謗中傷といったネットいじめも報告されています。SNS上のトラブルは大人から見えにくいため、日頃からお子さんの友人関係の変化に注意を払いましょう。大切なのは、子どもが「自分には話を聞いてくれる大人がいる」と感じられることです。
デジタル時代のSNSとウェルビーイング
スマホの健全な使い方
スマートフォンが普及し、ティーンエイジャーの生活はデジタル環境と切り離せなくなりました。SNSで友達と交流したり、動画サイトで趣味の情報を得たりと、オンライン空間は若者にとって重要な居場所の一つです。適度なSNS利用は情報収集や人とのつながりに役立ち、自己表現の場にもなり得ます。

しかし、デジタル社会には光と影の両面があります。こども家庭庁の調査分析によれば、インターネット空間ばかりに居場所を求めている若者ほど、現実の生活満足度や幸福感が低い傾向が見られました。これは、ネット上で手軽につながれる一方で、直接顔を合わせた人間関係や生身の体験が不足しがちになることが原因の一つかもしれません。
また、SNSでは他人の華やかな投稿を見て劣等感を抱いたり、匿名空間で心ない言葉を投げつけられたりするリスクもあります。画面越しのやりとりでは相手の表情が見えないため誤解が生まれやすく、サイバーいじめが深刻化するケースも報告されています。さらに就寝前までスマホを触ってしまうことで睡眠が妨げられ、翌日の疲労や気分の落ち込みにつながることも指摘されています。
健康なデジタル生活
デジタル時代の子育てにおいて、保護者は子どものオンライン活動に関心を持つことが求められます。一方的に制限をかけるだけでは反発を招くため、まずは「どんな動画が好きなの?」「ゲームの友達はどんな子?」といった質問から、子どものデジタル世界を理解する姿勢を見せましょう。
その上で、利用時間のルール作りやフィルタリングの活用について一緒に話し合うと効果的です。例えば「夜10時以降はスマホをリビングで預かる」「勉強中は通知をオフにする」といった約束事を家庭ごとに決めてみましょう。また、SNSで困ったことが起きた場合の相談先も共有しておくと安心です。
心と体のバランスを整えてウェルビーイングな毎日を。
参考資料
【資料A】 NTTデータ経営研究所(2024)『日本人の睡眠は足りていない?』経営研レポート https://www.nttdata-strategy.com/knowledge/reports/2024/241125/
【資料B】 朝日新聞(2023)『不登校29万人、いじめ68万件、ともに最多 文科省調査の全容判明』 https://www.asahi.com/articles/ASRB43W31RB3UTIL03K.html
【資料C】 認定NPO法人3keys(2021)『スクールカウンセラーとは〜増加する教員以外の専門家の役割と現状』 https://3keys.jp/issue/b03/
【資料D】 こども家庭庁(2024)『我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査 報告書』https://x.gd/qiSYI
西村太志(にしむら・たいし)兵庫県出身、東京都国立市在住。一橋大学大学院で社会学を研究中。ウェルビーイング、つながりの再構築、主観と客観のあいだを探る思想に関心がある。趣味は読書、映画、音楽(高校時代まで吹奏楽部)。