top of page

男性の“ケア労働”シフト イクメンからケアメンへ

  • 執筆者の写真: 西村太志
    西村太志
  • 5月19日
  • 読了時間: 5分

更新日:5月27日

共働きが当たり前になった都市部では、家事・育児に加え親の介護が重なる「ケアの連鎖」が、40〜50 代男性の目前に迫っています。総務省の社会生活基本調査では、40 代男性の家事・育児時間は10年前の約1.5倍に伸びましたが、依然として同世代女性の4分の1未満にとどまります【資料A】。

さらにこども家庭庁の若者調査では、18歳未満で家族を世話する男性ヤングケアラーが約1割を占めるとの報告もあり【資料B】、ケアは「将来の課題」ではなく「いま目前の現実」です。

イクメンの次に来る“ケアメン”


育児参加を示す「イクメン」という言葉は、2010年代の日本社会に定着しました。しかし2020年代半ばの今、家事・介護も横断的に担う“ケアメン”が求められています。日本でも超党派議連が「男性介護者支援法案」を準備しており、政策面でも転換点を迎えています。


ケアがもたらす3つのウェルビーイング効果


① 心理的報酬とレジリエンス向上

「成熟期の幸福度を決める最大要因は良質な対人関係」であるという考えがあります。家事・育児・介護に参画する男性は家族との対話が増え、自己効力感と帰属意識が高まる傾向があります。NTTデータ経営研究所の5,000人調査でも、週10時間以上ケアを担う男性は主観的幸福度と仕事満足度がいずれも高いスコアを示しました【資料C】。


② 身体的健康の向上

掃除機がけ30分で約100kcal、徒歩買い物20分は中強度有酸素運動に匹敵するといわれています。定期的な家事はメタボ予防だけでなく、ストレスホルモンのコルチゾール低下や睡眠質の改善にも寄与することが報告されています。運動不足を感じがちなミドル世代にとって、ケアは“ながらフィットネス”でもあるわけです。


③ キャリアスキルへの転換

リクルートワークス研究所白書は、介護経験を持つ男性管理職が「対人調整力」や「心理的安全性構築力」において非経験者より高いと分析しました【資料D】。多様性が評価される時代、ケアで培った共感力や段取り力は組織のリーダーシップに直結し、むしろキャリアのレバレッジになり得ます。



立ちはだかる3つの壁


● 時間の壁

厚労省の就労条件総合調査では、正社員男性の38%が週45時間超労働と報告されています。長時間労働はケア参画を阻む最大障壁です。解決策は「タイムブロッキング」──朝10分の洗濯、昼休みにネットスーパーで食材発注など、細切れ時間へケアを挿し込む“マイクロケア”思考です。

● スキルと自信の壁

調理・掃除経験が乏しいほど心理的ハードルは上がります。男性向け家事学習SNSや家事スキル自己診断アプリの利用で、75%が「家事に自信がついた」と答えています。学びのハードルを下げることで「俺は不器用だから無理」という固定観念を突破できます。

● 職場カルチャーの壁

男性の育休取得率は17.1%に伸びたものの、平均取得日数は29日【資料E】。同様の調査によれば、代替要員プールを整えた企業は男性の長期休暇取得率が1.8倍、離職率が30%減少しました。制度と職場文化は車の両輪。自らロールモデルとなることで文化は変わります。


ケアメンへの3ステップ


ステップ1:家族ミーティング月1回「わが家のケア・ポートフォリオ」をホワイトボードに書き出し、担当と負荷を見える化。役割固定から脱し、“チーム家族”を意識しましょう。

ステップ2:テクノロジーの導入ロボット掃除機導入世帯では家事時間が週2.3時間削減され、6割の男性が「家族との会話が増えた」と回答しました。自治体が実施する家事シェア家電補助金も一度検索してみてください。


体の変化とセルフケア


40代以降、男性ホルモンテストステロンの低下は疲労や抑うつ傾向を高めます。週150分以上の中強度運動と地中海食を組み合わせた12週間介入ではテストステロンが平均14%増加し、QOLが改善されたとの報告があります。家事を“筋トレ化”する工夫、スクワット姿勢での掃除、買い物袋をダンベル代わりに階段を上るなどは運動時間の捻出にも有効です。


介護ストレスから寝酒に頼ると深い睡眠が阻害され、翌日のケアパフォーマンスが落ちます。研究によれば、睡眠日誌+禁酒アプリで就寝時刻が平均30分前倒し、介護負担感が18%軽減しました。寝酒をノンアル飲料とストレッチに置き換える“代替習慣”を試してみてください。



ケアはキャリアのリスクではなくレバレッジ


ミドルエイジ・クライシスは「仕事か家庭か」の二択に見えがちですが、ケア経験をキャリア資源に変換する道が開けています。家族との対話で磨かれる傾聴力、マルチタスクで培う段取り力は、組織のリーダーシップに直結します。ケアメンへ踏み出すことは、自分自身と家族のウェルビーイングを同時に高める最短ルート。まずは今日、10分の洗濯から始めてみませんか?


心と体のバランスを整えてウェルビーイングな毎日を。



参考資料

【資料A】 総務省統計局 「令和2年社会生活基本調査」

【資料B】 有限責任監査法人トーマツ 「ヤングケアラー支援の効果的取組に関する調査研究」 2024【資料C】 NTTデータ経営研究所 「ウェルビーイングの計測とこれからのマネジメント〈経営〉の展望(前編)」 2023 【資料D】 リクルートワークス研究所 「働き方白書2023」 【資料E】 厚労省 「男性育休取得状況」2022



西村太志(にしむら・たいし) 兵庫県出身、東京都国立市在住。一橋大学大学院で社会学を研究中。ウェルビーイング、つながりの再構築、主観と客観のあいだを探る思想に関心がある。趣味は読書、映画、音楽(高校時代まで吹奏楽部)。


NCM_logo_white_edited.png
bottom of page