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安心感とは何か 心理的安全性と信頼のウェルビーイング

  • 執筆者の写真: 西村太志
    西村太志
  • 5 日前
  • 読了時間: 5分

「ほっ」と息をつける瞬間を思い出す


朝の通勤電車がトンネルを抜け、車窓に光が差し込んだとき、胸が少しひらく感覚を覚えたことはありませんか。その「ほっ」とする一瞬こそが安心感です。危険が迫っていないという外的安全と、ここにいてよいと許される内的安全が重なったとき、人は本来の力を伸びやかに発揮できます。

内閣府の令和6年「国民生活に関する世論調査」では、将来に安心を感じると答えた人の主観的幸福度が感じない人より平均15ポイント高いと示されました【資料A】。このコラムでは、その安心感をどう育み、仕事と暮らしのウェルビーイングにつなげるかを平易に考えます。



「安心」できる場所


安心感の二面性


安心感には「守られている」という客観的安全と、「受け入れられている」という主観的安全の二面があります。ガードレールや保険制度は前者を支え、信頼できる同僚や家族は後者を支えます。どちらか片方だけでは土台が傾きます。


災害対策の訓練に参加した住民は、未参加者に比べ実際の避難行動が約二・四倍速かったとする国の調査があります【資料F】。制度を「体験」することで客観的安全が実感へ変わり、安心感が底上げされるのです。


主観的安全を決める「場の空気」


ハーバード大のエイミー・C・エドモンドソン教授は、メンバーが間違いを報告しても罰せられない状態を「心理的安全性」と呼びました【資料B】。心理的安全性が高いチームは低いチームに比べ生産性が最大5割向上し、離職率も3割近く減少したという海外医療機関のレビューがあります【資料C】。

数字が示すインパクトは大きく、ポイントは「怒られないから言える」より「言っても大丈夫だから進めれる」ほうが成果に確実につながっているということです。



職場でつくる心理的安全性


感謝の言葉が作る安心


経済産業省のガイドは、心理的安全性を高める手立てとして「透明性・探求姿勢・即時の感謝」を挙げています【資料C】。判断の根拠を共有し、ミスの犯人探しではなく工程を探り、成果の大小を問わず「助かった」と伝える――たったこれだけで場の緊張はほどけます。感謝の言葉を交わすと、脳内でオキシトシンが分泌され信頼が深まることも生理学的に示されています。


中堅世代の沈黙はコスト


30〜50代は責任が増え評価を気にして発言を控えがちです。しかし社内で自分の「取扱説明書」を共有し合った日本企業では、アイデア採択率が向上し、ストレス関連欠勤が減ったと報告されています【資料C】。遠慮はコスト、声は資産なのです。



地域と家庭でつながる安心


隣人は知らない他人じゃない


内閣府の「孤独・孤立調査」は、週一回以上近隣と挨拶を交わす人が全く挨拶しない人より孤独感スコアが4割低かったと示しました【資料D】。都会で顔を合わせにくい場合はデジタルも活用できます。世田谷区は地域アプリを通じた災害情報の即時共有実験を進め、安否確認の速度向上を報告しています【資料G】。


一方、集合住宅では掲示板の閲覧率が戸建てより25ポイント低く、情報格差が安全格差になり得ると指摘する研究もあります。対面とオンラインの橋を行き来しながら、互いの存在を感じ取る工夫が欠かせません。


家族内コミュニケーションの第一歩


「今日どうだった?」と尋ね、「ありがとう」で締めくくる――このひと言がオキシトシンを介して家族全体のストレス反応を和らげる可能性が示唆されています。気負わず短い対話を重ねることが、家庭という最小のコミュニティを安全基地に変えていきます。


自分の中に安心を備えるセルフケア


自分自身で簡単にできるセルフケアもあります。それはいつも無意識に行っている呼吸です。この呼吸を、6秒で吸い6秒で吐く呼気延長法を5サイクル行うと、心拍変動が整い副交感神経が優位になるという実験があります【資料E】。 また背筋を伸ばすだけでもストレスホルモンが低下するという報告もあります【資料E】。


感情を書き出して整頓する


就寝前に今日感じた感情を3語、理由を短く書く「エモーショナル・ジャーナル」は、自己統制感を17%高めたとする国内外のレビューがあります【資料H】。 紙とペンがあれば始められる手軽なメンタルトレーニングです。


小さな達成で自己効力感を貯金する


カナダの縦断研究では、課題を小分けにして達成した参加者が半年後に自己効力感を2割高め、不安得点を有意に下げました【資料H】。「今日のタスクを3つに絞り、終えたら線を引く」だけでも脳は成功体験として記録します。自分で自分に安全を保証する力が、外の嵐に折れない心を支えます。


安心感はめぐる贈り物


安心感は独りで完結しません。「あなたはここにいていい」と伝える行為が円を描き、やがて自分を守る力にもなります。制度が支え、場の空気が支え、セルフケアが支える三層が重なるところにウェルビーイングは芽生えます。今日ひとつ、感謝を言葉にしてみませんか。それが誰かの、そして明日のあなた自身の「ほっ」を育てます。


心と体のバランスを整えてウェルビーイングな毎日を


参考文献

【資料A】内閣府, 「国民生活に関する世論調査」, 2024.

【資料B】「心理的安全性とは何か、生みの親エイミー C. エドモンドソンに聞く」, 『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』, 2023.

【資料C】経済産業省, 『心の健康投資・実践ガイド』, 2025.

【資料F】内閣府, 「防災に関するアンケート調査」, 2009.

【資料G】世田谷区, 『地域行政推進計画』, 2024.

西村太志(にしむら たいし)兵庫県出身、東京都国立市在住。一橋大学大学院で社会学を研究中。ウェルビーイング、つながりの再構築、主観と客観のあいだを探る思想に関心がある。趣味は読書、映画、音楽(高校時代まで吹奏楽部)。


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